ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
気づいた気持ち。
当直室のベッドから降りた藤堂海は着信を知らせる携帯電話を手に取り、通話ボタンに触れた。
「・・・もしもし、はい・・私です。」
静まり返った当直室のソファにドカッと身を投げて、電話の主と会話をする海の表情は何処となく緊張感が漂っていたのだった。
「そうですか・・。二条記念病院ですね。・・・分かりました。必ず美桜を連れ戻します。・・失礼します。」
切れた携帯をカシャンとテーブルの上に放り、天井を仰ぐ。
「二条慧・・・。あいつ、遊びなのか・・。本気なのか・・。何で美桜なんかに絡んでくるんだ!!」
怒りが収まらぬ海は、洗面台で顔を洗って冷えた水で体温を冷ました。
「お疲れ様でした。秋元先輩、お先に失礼します!」
「はーい。お疲れさま!!またね、美桜ちゃん。」
明るい表情でサラリとストレートのボブヘアを靡かせた秋元咲は、私に手を振り見送った。
今日は、18時には上がれたので着替えを終えて職員通用口へと向かった。
「良かったのか悪かったのか・・。急なオペで今日は二条先生と会えないみたいだから・・これを返すタイミングがなぁ・・。」
銀色のリングを見つめて、溜息をついた。
「なんだ・・。二条に何を返すんだ?」
歩きながら呟いていると、通用口を出た所でスーツ姿の男性が待ち伏せていた。
「海君!?何でここにいるの?」
驚いた私は、スマートな身のこなしで歩いてくる海を呆然と見つめていた。
「お前の父上から聞いた・・。ここで働いているらしいな。」
「えーと・・。誰か待ってるの?」
「お前を待っていたに決まっているだろう。お前と話がしたいんだ、ちょっと来い!」
「・・・え。ちょっと・・海君!?話って何よ?」
不機嫌な表情の海は、強引に私を掴んで引きずるように歩く。
右手を掴まれたまま、先の道で通りがかったタクシーに乗せられたのだった。