ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

「相変わらず素直な反応だな。お前、やっぱり二条慧が好きなのか?」

「ないわよ。何でそう思うの?」

複雑な表情で私を見下ろす海に、私は睨みながら逆に尋ねた。

「顔が赤いぞ。お前は素直だから、昔からすぐ顔に出るからな!」

「ないない!!好きな人なんていないわよ。
お願い海君、私との許嫁関係を解消して欲しいの。」

大きな瞳で見上げると、海の瞳が翳る。
ぶすっとした表情の海はボソリと呟いた。

「・・嫌だ。許嫁は絶対に解消しない!」

「は?何でよ。あんなに私みたいな不細工は嫌だって言ってたじゃない!?」

怒りながら、海を睨み付けると少し動揺している様子が伺えた。

「嫌いだ・・。お前なんか嫌いだ。だけど、山科の力とパイプは藤堂には欲しい。だから俺たちは当初の予定通り結婚する。」

「あり得ないわ。私は絶対に地元には戻らないもの。」

「戻らなくてもいい。俺も医者として今の病院で責任がある立場を任される予定になっている。お前が卒業したらすぐに結婚して、ここで一緒に暮らすことになる。」

私は呆然と海を見上げる。

何故、勝手に結婚の時期と、私の住居まで決めているのか意味が分からなかった。

「そう君の父上から言われた。お前の自由もせいぜいあと半年だな。」

ニヤリと笑う海にイライラした私は、踵を返して玄関へと向かう。

・・・バン!!

玄関の扉を押さえつけるようにドアノブへと手をかけ、もう1本の手は私の頭上に手をついた海は焦るような表情で睨み付けていた。

「お前を連れ戻すと、山科会長と約束したんだ。逃がすわけにはいかない!」

「お前もか。」と、叫びたかった・・。

「離してよ!私は結婚なんてしません。そもそも、貴方ほどの力のある医者なら、別に父なんて怖くもないでしょう?昔から私が嫌いなんだから従う理由はないはずよ。」

混乱していた私は、海を見上げると眉間に皺が深く刻まれていた。

「あんな軽い奴より、俺の方がいいに決まってる。症例数や、執刀回数は多いかもしれないが俺だって負けるつもりはない!それに、ムカつくんだよ。お前には昔から見透かされてるみたいでイライラする。」

「私は別にそんなつもりはないわ。貴方こそ私を貶して、見下して全然意味が分からない!」

カツと頭に血が昇ったような表情を見せた海は、私の腕をドアの扉に1本手に押さえつけた。
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