ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
嫌な思い出が頭に浮かびふらりと脚がもつれる。
夜空に大輪の花火が打ち上がり、大きな色とりどりの花火がキラキラと光輝いていた。
あの日、花火を見上げていた私に強引に唇を奪った海の険しい表情が浮かんだ。
「離してよ!!止めて。あの日も無理矢理キスなんかして・・。嫌がらせも程ほどにしないと犯罪になるわよ!」
「お前、馬鹿だろ?あんなの嫌がらせでも何でもない。そんな風に思ってたのか・・。」
ガクリと項垂れた海の視線の先に、首筋につけられた赤いアザが目に留まった。
瞳に苛立ちを映した海は私に強く掴みかかる。
「おい・・。なんだこれ、まさか二条にやられたのか?おい美桜・・答えろ!?」
「え?これって何!?」
私は首筋の赤いアザに気づいて、その時の二条慧を思い出して一気に顔が真っ赤に染まった。
・・プツンと何かが切れた音がした。
海の目の色は変わり果て、荒い手つきで私を急に両足ごと抱きかかえてリビングへと連れていく。
ドサリと、大きな皮張りのソファに降ろされた私は一気に恐怖感でパニックになる。
「えっ!?ちょっと・・海君!?どうしたの?何するのよ!」
秀麗でスマートな美しさを称えた姿の海は、花火大会の時のように、別人のような険しい表情で私を見下ろしていた。
その時、私のポケットに入っていた携帯電話のバイブ音が鳴り出した。
取り出した携帯の画面には、二条慧の着信を知らせる表示が出ていた。
私は携帯電話を手にガバッと身体を起こしてソファから立ち上がり電話に出た。
「美桜、今どこにいる?」
「場所はハッキリと分かりません・・。
タクシーで、青山一丁目の駅が六本木からはしって右手に見えました。
あとは、郵便局が見えて・・。あとスタバが隣のビルに入った隣のマンションの29階です!!あ、止めて海く・・。」
携帯電話が海によって奪い取られ、目の前で切られた。
「誰だ?今の二条か・・?」
ガシャっと落とされた携帯電話が勢い良く床に転がり、私は呆然とそれを座ったまま見下ろした。
「・・だったら何?海君・・さっきから言葉と行動が噛み合ってないよ。」
「俺だって訳が分からなすぎてイライラしてる。お前なんて嫌いなはずなのに、どうしていつも頭の中に入り込んでくるんだ!?」
苦しそうに私に向き直った海は、私の身体を床に押し倒した。