ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
ジタバタしながら腕も押さえられて跨られると身動きが取れなくなり震えが走る。
反転した天井に慌てて正面を見上げると、真上から見下ろしている海が見えた。
「二条とはもうキスも・・キス以上の事もしたのか?」
「・・・キス以上?」
恍けた返しに、海は冷やりとした笑みを浮かべた。
「8年・・。東京でどんな生活をしているかと思えば、勉強とアルバイトに明け暮れて
健全な生活をしていたみたいだな。そもそも、お前は俺以外の男なんか選べないだろうけどな。」
「自惚れないで・・。私は別に貴方を選びたい訳じゃない。もし私が誰かを選んでも・・その人があんた達に傷つけられるのが嫌なだけ。」
私は、嘲るような視線で見下ろす海をキツく睨む。
一瞬、ふっと笑い眼鏡を外した。
私の顔へと近づく切れ長の賢そうな瞳に焦りを感じた。
唇をかぶりつく様にして奪われた瞬間私は目を見開いて驚く。
白いシャツのボタンに手を掛けられ、1つずつ器用に外していく海の動きに全身の温度が下がっていく。
激しく啄まれながら、険しさと危ういキスを受けて私は混乱と、驚きと違和感を感じる。
抵抗する腕を思いきり抑えて、どんどん開かれる前開きのシャツに不安と肌の寒さを感じていた。
「どうせ俺の物になるんだ・・。ずっと、それは決まってたんだ。今すぐ自分の物にしたっていいだろ?」
「・・・最低ね。いい加減あなたには、愛想が尽きたわ!!」
瞳を眇めて、一瞬傷ついたような表情を浮かべていた。
私は、海にキスされた事も、これから始まる事も未知への恐怖と不安で身体がカタカタ震えだした。
「今まで分からなかった・・。お前に何故イライラするのか。思い通りにならないからなのだと思ってた・・。」
私は、訳が分からず頬に伝う涙を感じながら瞳を逸らした。
「・・きだからなんだな・・。」
よく聞き取れない音量で言葉が宙に投げられる。
「ずっと俺の物だった・・。お前は生まれた時から俺と結婚する運命だったんだ!あいつには渡さない!」
残されたボタンを面倒くさそうに全部こじ開けた。
ボタンが飛び散って、肌寒さを感じて自分の上半身の状況を確認した私は息を飲んだ。
・・・助けて二条先生!!
心の中で強く過ったのは二条慧の姿だった。
下がって来た唇が胸に落ちそうになった時、部屋中にインターフォンの音が鳴り響いた。