ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
目が覚めると、大きな真っ白な天井が視界に広がっていた。
横を見ると、秋元咲と、守田寛貴がホッとした表情で私を見下ろしていた。
「美桜ちゃん!!気が付いたのね。良かったあ・・。」
咲は、泣きそうになりながらも私の手をギュッと握って微笑んでいた。
「先輩・・。私・・どうして?」
「二条先生が、藤堂先生の家を調べてみんなで向かったの・・。もう大丈夫よ、安心してね。」
「ああ・・そっか、海君の家で・・。有難うございます・・。ご迷惑かけてしまってすみません。」
「迷惑なんかじゃないわよ!寛貴も、二条先生もどれだけ安心したか・・。それよりも呼吸はどう?苦しくない?」
「はい・・。もう、大丈夫みたいです。」
寛貴はその部屋のドアから誰かを呼びに行ったようだった。
一瞬、海の部屋での光景が思い出されて息が苦しくなりそうだったが、咲の笑顔や手に感じる体温で今は安全な場所にいるから大丈夫だと言い聞かせる。
少し深く深呼吸をした・・。
ぐるりと部屋を見渡すと、12帖程の室内に、私が横たわっている黒い大きなベッド、ガラスで出来たスタンドライト、ナイトテーブルが備えられていて、大きな窓にはモスグリーンのカーテンがひかれていた。
ふかふかの絨毯の上にはアクリルで出来た、お洒落なテーブルセットが置かれている。
「あの・・。すみません・・。ここは何処ですか?」
自分の部屋とは程遠い、贅沢な内装の室内に驚いてしまう。
「ここは俺の家だ。」
入口の扉の前に、水差しとコップ、ティーカップとソーサーを乗せたトレーを持って立っている二条慧の姿があった。
「・・・そうですか。危なさで言えば海君の家と変わらないような気がするんですけど。」
「おい。あれと一緒にするな。失礼すぎるぞ・・。」
「そうですか!?あまり、私の中では差異はないですよ。」
「王子と一般貴族ぐらいの大きな差があると思う。」
「それってあまり大差なくないですか?」
ふくれっ面になった慧と、睨んでいる私を咲が笑顔で窘める。
「大丈夫よ、今夜は私と寛貴もここに泊めてもらうから。家が近かった二条先生のご厚意に甘えることにしたのよ。ここなら、私たちのお世話になる部屋もあると言われたしね。」
「先輩と守田先生がいるなら安心ですね。お2人ともすみません・・。」
「とりあえず今夜はゆっくり休まないと。明日、咲と山科さんは僕が送っていくから安心して。」
咲と寛貴の優しい笑顔に、少しだけホッと気持ちが落ち着くそんな気がした。