ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
邸宅のお洒落なレンガ張りの廊下の大きなベンチが倒れていた。
その横に30代ぐらいの男性が横たわっているのが目に飛び込んで来る。
現場には、人だかりができ始めていた。
私と梨夏は、慌てて男性へと駆け寄る。
グリーンのドレスで床に座り込み、男性へと声をかける。
「大丈夫ですか??・・分かりますか??」
私は、携帯をバッグから取り出すと救急車を呼ぶために119番へと電話をかける。
救急隊員に、場所と倒れた男性の状態を伝えていた。
その時、私の視界を黒い髪の男性が通り過ぎた。
黒い髪がサラリと靡いて、上等な紺のストライプのスーツを身に纏っていた
その男性は、倒れた男性の側で脈を取り始める。
眼球の状態を確認している様子を見て、この男性は医者なのだと分かった。
「良かった・・お医者さんみたいだね。」
梨夏がホッとしたような表情で私に笑いかける。
「うん。少し安心だね・・。」
救急隊員がすぐに駆け付けて、男性をストレッチャーで運び出した。
側にいた男性も、救急隊員と喋りながら付き添って行った。
<・・・バタン!!>
大きな音がして、救急車の後ろのドアが閉じられた。
しかし、いつまで経っても救急車は動き出さない。
私は不安に思って救急車の横のドアを開けた。
いきなり、目の前で怒ったような男性の声が飛び込んできた。
「何故ですか??どうして搬送先が見つからないんだ。
脈も弱くなって来ている。早く見つけてくれ。」
「3件目の病院にも断られました。他の病院にも当たってみます・・。」
「広尾に知り合いの病院がある。「二条記念病院」だ。連絡してみて来れないか?」
私はその言葉に耳を疑った。