ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
その日の夕方から急に天候が崩れ、酷い雨が降り出していた。

「咲先輩・・。天気が一気に崩れてますね・・。外は土砂降りみたいです。」

ザーーッと音を立てる外の強い雨音に驚く。

私は窓の外を見て、ガックリと項垂れた。

雷の音まで聞こえて来て、慌てて天気予報を調べている咲の方を不安気に見た。

「大変・・。今日、嵐みたいよ。電車が動かなくなったら大変だし、仕事もある程度片付いたわ。
今日はもう定時前に上がりましょうか・・。」

「先輩、403号室の中村さんの様子だけ見に行って来てもいいですか?明日ムンテラみたいなんですけど、ご家族もさっきいらしていたみたいなんで顔を出してきます。」

「私も今日の日報と、集計を纏めておくから行ってらっしゃい。」

私は、患者さんの部屋へと急いで向かった。

話が長くなり、気がつくと定時など当に過ぎた時間になっていた。

私は、急いで帰り支度をして相談室に戻ったが、咲の姿は既になく「お先に帰ります」と書かれた直筆の手紙が置いてあった。

着替えをして、職員通用口を出ると外は滝のような土砂降りになっていた。

職員通用口から飛び出そうとすると、私の携帯のラインに慧からメッセージが入った。

周りを見渡すと、少し先の路地に車を見つける。

二条慧が車の中から私に合図をした。

「二条先生、帰ったんじゃなかったの?」

一瞬で傘をさしているのに全身がびしょ濡れになった私は、慧の車の助手席に滑り込んだ。

慧はずっと私を待っていたようだった。

「ああ。用事を済ませて帰って来た。美桜、ちょっと手を出して・・。」

私は、訳も分からず手を差し出した。

そこに銀色のリングがコロンと落とされる。

瞳を大きく見開いて、そのリングの姿を目にした私は大声で驚く。

「二条先生、このリング何処にあったんですか!?」

「藤堂に返してもらって来た。さっきまで東央大附属病院に行って来たんだ。」

意外な言葉に耳を疑った。

「海君に会いに行ったの・・?」

正直に言うと私は複雑な気持ちだった。

昨日の私の襲われた姿を彼に見られた事も嫌だったし、私が海君に口づけられたことも彼に知られたくなかった。

挙句の果てに、指輪を彼の家で失くした自分自身にも幻滅していたのだった。

「彼は、君が好きだと自覚したみたいだ。・・遅いよな。何年許嫁をやってたんだか・・。」

慧からのその言葉に、私は胸が痛んだ。
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