ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
激しい雨音が聞こえていた。
私は濡れた体で慧の腕の中で抱きしめられていた。
「あのさ、美桜・・。君は俺の事が好きだろ?」
慧の胸からは優しい香りと、温かい体温を感じた。
昨日の海との口づけには嫌悪感を感じたのに、私は彼に抱きしめられても嫌な気持ちはしない。
その明らかな差に、理央から言われた「その内に気づく」と言う言葉が頭を掠めた。
「いいえ。・・それはないです。好きじゃないです!」
「ふーん。でも、心拍数がかなり上がってるよ。勿論、俺も上がってるけど。」
指摘された途端、1秒でも早く離れなきゃと思った。
腕を突っ張ると、クスッと笑った慧に「図星だな。素直で可愛い。」と言われて耳まで真っ赤になった。
「うちにおいで。二条だって病院経営だけじゃない。それこそ、あらゆる権力と繋がっているんだ。俺なら君を守れる。」
私は驚いて、胸の中で顔を上げて慧を見上げた。
「そんなご迷惑かけられません。それに私・・、二条先生にまで何かあったら耐えられない!」
「ふーん。可笑しいな。どうして俺に何かあったら君が耐えられないの?」
私はポカンとした顔で慧を見上げた。
あれ?
何でだ・・。何で私はこの人に何かあったら嫌なんだろう。
目をパチクリしながら見つめていた。
「ぶっ・・。あはははは。」
「は?何ですか!?ちょっと、人の顔を見てそんなに笑わないで下さいよ、失礼でしょう?」
私の頬を両手で挟んで、上から至近距離で見下ろした慧は真剣な表情を向けた。
「君は俺の事が好きなんだ。鈍い君はその感情に気づいていないようだし、気づきたくないんだ。」
至近距離の美形の接近戦に目を泳がせた私は非常に心臓が煩かった。
「だけど、俺は鈍感な所も好きだ。鈍感にならざる得ない環境で育った君の全てを理解したいと思ってる。」
私は、その言葉に心臓が止まりそうな程大きく胸が鳴った。
「私は敏感ですよ。だって私今の言葉、すごく嬉しいです。でも、貴方に何も返せないんです。貴方の重荷や、足手纏いになるだけじゃ・・嫌です。」
頬を膨らまして、そっぽを向こうとしたら嬉しそうに慧はその言葉に微笑んでいた。
「君が俺の側にいてくれる。それだけでいいよ。」
「そんなの・・。私が嫌ですよ。」
「俺がどれだけ君を好きか知らないからそんな事が言えるんだ。君は俺が医者じゃなくなっても、大金持ちじゃなくなっても好きでいてくれるだろう?」
「私が好きな前提なのが納得いきませんが、悔しいですが変わらないと思います・・。」