ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

最恐の登場。

図書館で調べものをしていると、理央が私を見つけて手を振る。

久しぶりに大学院に来た彼女は、ウェーブのかかったセミロングの髪を揺らして息を上げてこちからへ駆けてきた。

「美桜ー!!今夜、論文終わったお疲れ会をうちでやろうと思ってるんだけど。
ゼミのメンバーも参加できる人は来るし、あんたも良かったら来ない?」

声が普段から大きい彼女が、多少低めに話した声は人々の通常の話し声よりも大きいのだった。

私は笑いながら「待ってて、これ借りたら院生室もどるから。」と、言って貸し出しカウンターで本を貸りた。

院生室へ戻る途中に理央には、慧か守田が迎えに来ることになっていると伝えると、驚きを隠せずに騒ぎだした。

「え?あんたの人生は今どうなってんの!?」

「あー・・。非常に込み入ってるのよ。話せば長くなるけど聞く?」

「勿論聞くわよ!説明がないと全く理解出来ないもの・・。何がどうなってるのよ?」

私は、半年後の藤堂海との挙式話と、マンションに翌日には家の者が現れていた事、慧とあれから一緒に暮らしている事を話すと、腰がぬけそうな程驚き、ヨロヨロと歩く理央に話を続けた。

「信じられない。何処の昼ドラよ!?」

とパニックになる始末だった。

「そんなこんなで、飲み会に参加するなら慧に電話しないといけないの。」

「うーん、でもちょっと見てみたいかも!!美桜を唸らせる強者の天才外科医様!」

「もう。見世物じゃないってば・・!!
二人で結託して色々企みそうで恐いな。
・・却下で。」

目をキラキラさせた理央の絡みを笑って流すと、院生室の前の廊下に差し掛かった辺りで一度立ち止まる。

信じられない人物が、自分の院生室の前に立っていたので幻覚か錯覚なのか目を擦る。

まさか・・ね。そんな訳ないわ。

あの人がこんな所に現れる訳がない。

納得させて、下を向きながら歩きだす。

「あのー、・・・誰かに、お約束か何かですか?」

理央がその人物に声をかける。

振り向いた人物の顔を見て驚愕する。

嘘・・!?

やっぱり本物なの?

私は、目を見開いて廊下に立ち尽くした。

薄い紫の着物を身につけた人物に理央が訪ねると、私と同じ色白で色素の薄い焦げ茶色の瞳をこちらに向け。
口元には、真っ赤な紅を差した女性が艶やかに微笑んだ。

「あら、・・・美桜さんじゃない。こちらの方は、貴方のお友だちかしら?
今日は貴方に会いに来たのよ。いつも美桜さんがお世話になってます。私、美桜の母の山科菫と申します。」

私は、突然の母の登場に驚きを隠せなかった。
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