ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
「脈拍も安定したので、ICUに運びます。」
看護師が、処置室から容体の落ち着いた男性をストレッチャーで運んで行く。
「良かった。搬送が間に合って良かった。
腹部に痛みを訴えていたので、胃の痛みか腸か肝臓あたりだと思ったが・・。
まさか、心臓だったなんてな。」
「流石ですね、二条先生!!
すぐに心エコーをされるなんて・・。
それよりも、確か来週からの勤務だったんじゃありませんか?」
「ああ。まさか、友人の結婚式場で急患なんてな。
驚いたが・・、昨夜に帰国したばかりで慣れない時差ボケも吹っ飛んだよ。」
「お前らしいな。久しぶりだな二条!!
来週から戻るお前の噂で持ち切りだぞ・・美貌の天才外科医 二条 慧。」
医大の先輩だった、同じ外科医の守田 寛貴に揶揄われた二条慧は苦い笑みを浮かべた。
「守田先輩、それよりもさっき救急車でこちらに付き添った女性はここの看護師ですか?」
「ああ、彼女は医療連携室の秋元さんの所の大学院生のアルバイトじゃなかったかな。
美人で優秀なので、彼女もこの病院では有名だぞ?」
「そうか・・。名前は?・・彼女の名前は何て言うんだ?」
二条慧の大きな瞳はギラギラと瞳を輝かせて守田を見つめた。
「山科 美桜さんだけど・・。どうした?」
「大学院生・・山科 美桜ね。そうか、有難う。」
二条慧は何かを思案した様子で、自動ドアを外へと出ていきながら
口角を上げて嬉しそうに微笑んでいた。
天然記念物でも見つけたかのような驚きの表情で、守田寛貴は、二条慧の背中を
見つめていた。
「おいおい・・。なんだよ今の!?
あの二条慧が女の名前を聞いて、微笑んでいたぞ?
症例研究と、外科の手術以外に興味を持たず、院長もお手上げの医学馬鹿が
山科美桜に興味を持った・・?うわっ・・なんだ、めちゃくちゃ不安!!」
1人処置室に残された、守田寛貴は真っ青になりながら二条慧が退出した
ドアを呆然と眺めていた。