ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

外来の待合室にある丸い大きな時計は、男性が運び込まれてから丁度2時間が
経過したことを告げていた。

土曜日の午後の外来は、殆ど人が捌けていた。

「あの男性は、大丈夫なのかしら?かなり時間が経っているけれど・・。」

私は、場違いのシルクのドレスをそっと握り心配そうに回りを見る。

私の遥か遠くにはお婆さんが座っていて、その斜め前には夫婦が会計の順番を
待っているようだった。

「山科さん!!山科美桜さん・・。こちらに来て。」

後ろを振り向くとスタッフや、患者に人気の優しい外科の医師、守田先生と、
壁に凭れ足を組んだ姿勢で立っていたのは先程、患者の側で処置をしていた男性だった。

私は、すぐに立ち上がり2人の側へと駆けた。

「山科さんの機転のお陰で処置が間に合った。
男性の容体も今は安定しているよ。的確な対応だったよ、ありがとうね。
・・・こいつも、感謝していたよ。」

私は、そっと壁に凭れる男性の方へと視線を動かす。

身長は180cm以上のスラリとした肢体。

黒髪が眉毛の傍でサラリと揺れ、顔も小さい。

黒目がちの大きな瞳に目尻はキュッと上がった整った顔の男性だった。

その男性は、私を無言でジーッと見つめていた。

芸能人並みのオーラを放つその男性に私は居心地の悪さを感じた。


「おい・・。そんな睨んだような表情だと山科さんも怖がるぞ。
お前のその凍てついた視線で何度人が凍ったか。
どれだけお前の人災を僕が裁いたか・・。」

柔らかな印象と対照的な、その男性はピクリと眉を顰めた。
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