ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
綺麗に整えられたリビングに座したままの二人は、向かい合うようにして冷たい真っ白な床の上でペタリと足をついて呆然としていた。

私の体験した「あの日」を黙って聞いていた慧は全身を震わせて俯いていた。

「慧・・?どうしたの!?」

さっきから動こうとしない慧の顔を覗き込むと、見たことのない冷笑を浮かべていた。

一瞬驚いた私は、大きな瞳を瞬かせた。

慧は、鋭い刃物のような尖った瞳に光を称え私の体を力一杯引き寄せる。

「美桜、ごめん・・。独りにしてごめん!!
君がそんな思いをしていたなんて、そんな言葉をあいつは君に・・。絶対に許せない。」

きつく抱き締められて、固まる私の頬に温かい物が触れた。

慧の涙が私の頬に触れていた。

ビックリして、体を離そうとすると慧は更に力一杯抱き締めて私をその両腕に抱え込んだ。

「頼む、美桜・・。力を貸してくれ。「切り札」を一緒に見つけるんだ。鍵のはまりそうなアンティークの家具を見つけて。その先の真実を必ず見つけよう。」

「それがあれば、あの人を懲らしめられる?
でも、それを見つけて騒ぎたてた所で・・貴方には危害は行かないの?」

「ああ。俺は大丈夫だ。
万全の状態に何年もかけて準備してきたんだ。
何が起きても俺が必ず君の側にいる。」

「隠せば必ず暴かれるわ。秘密が大きければ大きい程に労力や、人の力が必要になる。
嘘を秘匿し続けることは苦行のようなものよ。
だから、いつか必ず綻びが出るわ・・。私に出来ることは何でもする!この鍵を持って、山科の家へ行けばいいのね?」

慧は苦しそうに抱き締めたまま、頷く。

「だけど、一人では行かせない。行くとしたら俺も一緒に行く・・。」

「見つけたら、遠慮なしに戦いましょう。
どんな真実が出ても私はその気持ちを変えないわ。兄を見殺しにした父や母を許せないの。」


そっと体を離した慧は、私を切なそうに見下ろして優しく微笑んだ。

私の髪に優しくキスを落として見上げる。

「君の兄である、山科 聖人はどうやら死んでないらしい。何処かで生きているようだ。」

「嘘・・!?本当に?母は、あの時ハッキリ死んだと行ったのに・・。」

私は動揺しながらも、嬉しさで一杯になった。
独りでに涙がまた溢れ出してくる。

「山科 聖人も「切り札」の1つであり、彼の生存も山科のタブーだ。
どんな状態で生きているかは判らないが、彼を見つけ出す必要があるんだ。
君の母親は、居所を言えば殺されると言っていた。
彼の存命は、あの家でのそこまでのタブーなんだ。」

「あの日、父が母に告げた通りだわ。私まで嘘を告げられるなんて・・寂しいわね。
でも、生きてくれているならこれ程嬉しい事はない。教えてくれて有り難う!!」

慧に微笑んだ私は、眩しそうに目を細める慧に優しく目尻に唇をそっと落とされる。
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