ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
「それは・・。あの藤堂が誰かを見舞っているんですか?」
「そうらしい。しかも、ここ何年も毎日欠かさずなんだって。暗黙の了解らしいが・・。
たまたま講演会で会った同期が、藤堂の話を振ってみたら、その行為自体が不自然じゃないかって話してくれてね。」
チラりと美桜を覗き見ると、笑顔で咲に差し出された菓子を手に取って微笑んでいた。
窓の外を見つめながら、ボソッと慧は寛貴に頼んだ。
「守田先輩、その相手を突き止めて下さい。
詳しい部屋の場所か、病棟の情報があれば帰りの足ですぐに彼女と向かいます。」
「分かった。俺の同期の情報だから信憑性は高い筈だぞ。早速、詳しい詳細を確かめてもらう。」
寛貴は、ポケットの携帯を片手にデッキへと向かった。
今まで、何度探しても見つからなかった聖人の居場所の片鱗が見えた気がした。
慧は深く目を瞑り、溜息を吐く。
美桜の大学院卒業まで4か月を切っていた。
そろそろ、全てのケリをつけねばならい。
少しでも早く結論付けなければ藤堂も動き出す・・。
山科と藤堂が組んで動かれると厄介になる。
右手に握られたペットボトルは、力が入りぐしゃりと歪む。
「美桜ちゃん。もうすぐ着くみたいよ!!」
頭の中で考えを巡らせながら、窓の外を見ていた。
ふと、顔を上げると楽しそうに微笑み合う咲と美桜の様子を見て僅かに気持ちが和んだ。
駅からは、タクシーで20分の距離の山の中腹に「山科邸」は存在感を放ちそこに座していた。
遥かに見上げる高さの門扉には、大きな家紋が描かれた重厚な鉄門だった。
繊細な装飾と、金を凝らした精緻な飾りで描かれた年代が感じられる物だった。
「お帰りなさいませ、美桜お嬢様。」
館の玄関ホールには30人程の執事やメイドが並んで出迎えた。
「倉本、皆・・。久しいわね。出迎え有難う。」
「お邪魔します。いつもお世話になっています。美桜さんと同じ職場の医師、二条慧と申します。」
丁寧な品のある礼と、芸能界のようなオーラを漂わす一般人枠を越えた容姿の慧に、メイド達は一瞬ざわっとした。
うちのメイドは、ミーハーね・・。
慧が慧だから、仕方ないわね。
苦く笑って、先輩の咲と寛貴を紹介する。
集った執事やメイドは、4人に歓迎の挨拶と、丁寧な礼を取った。
私は、幼い頃から育った館へと数年ぶりの帰宅をした。
玄関ホールは大きな天窓に繋がるように吹き抜けになっていて、大きなスワロフスキーが使用された光り輝くシャンデリアが出迎える。
赤い絨毯が敷き詰められ、ふかふかの床を歩く。
玄関ホールの先には、二階へと続く左右二股の階段が位置する。
その先の大きな窓には、ステンドグラスが色とりどりの光と色を中に映し輝いていた。
「凄いわね・・。旧家って言っていたけど、貴族の邸宅みたい。」
咲先輩は落ち着かない様子でキョロキョロ周りを見ながら客間へ案内されていた。