ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
土壁の蔵は、夏でも涼しく、冬には雪国の厳しさ体現した冷蔵庫のような場所となる。
電気をパチリと付けると様々な年代物の骨董品が納められていた。

私は目当ての場所に向かって足早に進んでいく。

刀や甲冑、アンティークのランプなど世界中の骨董が所狭しと置かれていた。

「凄いわね・・。鑑定団に出したらすごい値が付きそうなお宝ばかりじゃない?」

「この刀、本物の真剣みたいだな。」

「ここは今、僕自身が閉じ込められても怖いよ。
子供の時に、夜中・・ここで一人過ごすなんて、本当に恐ろしかっただろうね。」

「山科家の恐ろしさって聞けば聞くほど、常軌を逸してるわ。」

「どんな恐怖の中でも、人は慣れて麻痺するんだ。困難な状況への適応と呼ぶ・・。
そうしないと生きていけないからな。」

咲と寛貴の言葉に、慧が表情を変えずに呟く。

小さな電球が各所に備えられていて、パチッと暗がりを照らした。

奥へ奥へと進んでいくと、目当ての物の前へと辿り着いた。

蔵の隅に置いてある、大きなアンティーク。

テーブルぐらいの大きさの豪華な蝶つがいと螺鈿が施された彫の美しい
アンティークのドレッサーが置いてあった。

「あ・・あった!これだわ・・!!」

「美桜ちゃん!?・・いきなり大声を出して、どうしたの?」

目当ての物を見つけると、走り出した私の後ろに慧と寛貴と咲が着いてくる。

「これなのか・・。ああ、確かにここに鍵穴がある。」

スッと慧が歩み出て、ドレッサーの引き出しの錠穴に鍵を差し込んだ。

クルリと回転した鍵は、静かにカシャン・・と音を立てて目の前で錠が解除された。

私達は息を飲んでその光景を見ていた。

慧は淡々と、その引き出しをゆっくりと開け中に入っている物を見つけた。

その中には大きなA4の封筒と、一台の小さなボイスレコーダーが置かれていた。

「慧、そこには何が入っているの?」

私は、不安気に慧を見る。

寛貴と咲も不安気に私達の様子を見守っていた。

「ここに、15年前の事件の真相が入っているはずだ。「山科の最大のタブー」だ。」

ゴクリと息を飲む緊張感が蔵の中には漂っていた。

私は、封筒を見ながら首を傾げた。

「それが、うちのタブー。そんな物が何故こんな所に隠されてあったのかしら・・。」

「どうも山科聖人・・。君のお兄さんがこれを隠したようだな。君に見つけて欲しかったみたいだ。」

私はその言葉に驚いて慧を見つめる。

「手紙に、君にしか解らないヒントを隠した所を見るとそうじゃないか?
この隠し場所は、君でなければ解けなかった。」

「なるほど、しかし・・。見つかったのはいいが。もう夕方だぞ・・。」

寛貴は、不安そうに携帯の時計を確認していた。

「とりあえず、ここに長く居れば訝しまれるわ。
もう両親も戻って来てしまう時刻になってしまう!それをしまって急いでここを出ましょう!!」

私は、父と母の帰りを案じて腕時計の時刻を見た。

空が茜色に染まり始めた頃に焦りを感じていた。

16時20分。

ここに辿り着くまでに、時間が掛かり過ぎていたのだった。

うかうかしてられる時刻はとっくに過ぎていた。

切れ長の瞳を強く見開いた慧は頷いて、鞄の中にそれをそっとしまう。

そして進行方向を確認する為に出口を見て驚きに目を見開いてその場に固まった。

慧の視線の先を追うと同じく愕然とする。
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