ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
「藤堂、危ない!!」

ビリッ・・。

布が切り裂かれるような嫌な音が響く。

咄嗟に海を庇った慧は、ナイフで胸を切り裂かれる。

「おい!!二条・・。お前っ・・。」

慧に向けて降ろされたナイフを叩き落して、蹴りを入れた海は大きな声で叫ぶ。

「誰か!!おいっ!!誰か早く来てくれ・・!!」

倒れた男を慧が馬乗りに乗っかりその身動きを封じた。

「どうなさいました・・。えっ、藤堂先生!?どうしたんですか?」

パッと部屋の明かりが灯されて、襲ってきた男は眩しそうに顔を顰めた。

警察が来て、連行されていく男の姿を慧と、海は黙って見守っていた。

事情聴取を頼まれて、応じていた2人だったがその表情は疲弊していた。

静寂を取り戻した病室の中で、疲れがドッと出て緊張感が解けた様子で床に座り込んでいた。

「おい・・。ヒヤヒヤしたぞ、二条!!お前・・。しかし、病院に来るには凄い装備だな。」

「ああ。まあな。防弾チョッキは必須だろ?」

・・ドサッと床に重みのある物が落とされて、海は顔を顰めた。

「普通、持ってないぞ・・。どんな人生なんだ、お前は・・。」

海も、慧も笑った。

さっきまでの張りつめていた空気がなくなり安堵感に包まれていた。

「なあ、二条・・。俺、美桜と結婚するの辞める。」

「・・は?お前、美桜が大好きで気持ち悪いくらい虐めていたんだろ?何で今更・・。」

「あいつの父に聖人を殺せと命じられた・・。
聖人は俺の友人でもあるのに・・・。
あの父親には着いていけない・・。
美桜だって、あんな男の言いなりになって結婚するのは癪だろうなって思った。
俺は気づくのが遅かったけどな・・・。」

「そうか、俺も美桜にさようならって言われた。場の空気に飲まれて、大事な彼女を傷つけてしまった。」

「なんだと!?お前何やってんだよ!?
俺は諦めないからな。直接申し込むつもりだ。お前から、どうやって奪いかえそうか策を練ろうと思ってたのに。そんなんじゃ、すぐに俺か他の男に取られるぞ?」

「そうだな。だけど、美桜がこれからの人生を決めればいい。
俺の気持ちは何も変わらない・・。」

まだ文句を言いたそうな海の横から、ふらりと立ち上がった慧は持ってきた鞄の中から封筒を取り出す。

ボイスレコーダーの再生スィッチを押すと、生々しい肉声のやり取りが流れ出した。

「聖人・・・。待たせたな。
約束を果たしに来た。
お前が大事していた美桜がお前の遺書からこれを見つけた。後は世間に公開するだけだ。
すでにその手筈も整えてある・・。
だから、安心して目を覚ましてくれ。
話したい事が沢山あるんだ、お前と。」

慧と聖人を交互に見つめながら、驚いている海を後目に慧は聖人の頬に触れた。
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