所長による小動物系女子の捕獲計画
「はぁー、やっぱり戻って来て良かった。また泣いてだろ?」

ギュウギュウと抱きしめてからやっと少し距離を取った多和田さんに顔を覗き込まれた。

「ーーーまだ泣いてませんっ」

「まだ、って事はこれから泣くとこだった?」

「泣きたくなんてないです。でも、傷付けたくないし、傷付きたくもないし、どうしたらいいか分からなくって、そしたら涙が出てきて」

「ヤマアラシのジレンマ、だな」

感情のままに気持ちを吐き出していたのに、突然出て来た馴染みのない言葉に、動きが止まった。ジレンマは分かるけど、ヤマアラシって何?

「ヤマアラシはげっ歯類でネズミの遠い親戚みたいなもんだ。体が硬い針で覆われてる動物だよ」

「はぁ‥‥‥」

さっきまで多和田さんと私の関係について真剣に悩んでいたのに、急にヤマアラシの説明をされても、面食らってしまう。曖昧な返事を返すのさえ精一杯だ。

「ヤマアラシのジレンマ、原義だとハリネズミのジレンマ。ほら、莉乃の事だろ?」
< 73 / 80 >

この作品をシェア

pagetop