Memory Puzzle
「そうですか。では、このオーディションに参加した理由は。」
表情も変えず、淡々とした口調で質問して来る。
「はい。記憶を無くし、夢も将来も見失っていた私の為に、周りの方が勧めて下さいました。この作品には、私が実際に遭った事故が基になっているので、とても関心があります。」
「今日は、朝ごはん食べましたか?」
これまでと変わらない最後の質問を時音に投げかけて来た。
「いいえ。緊張していてそんな事を考えていませんでした。」
「分かりました。以上です。では、次、11番。」
時音は席につき、胸を撫で下ろした。全く練習もしてなかったのだ。今の所、変な事はしていない。時音は、隣の彼女の応答に耳を傾けた。
「陽菜 愛美(はるな まなみ)、17歳、ナノアワードエンタテイメント所属です。特技はバレエです。」
陽菜さんは、淡々と答えていく。全く動じない凛とした、様子だった。完璧な人、これが時音にとって、彼女への印象だった。
あっという間に、質疑応答が終わったのだが、左の男の人が口を開いた。
「では、これからは僕が引き継いでいきます。これから、一人ずつフリーエチュードをして頂きます。お題は目の前に人が倒れている時の演技をする。それ以外の設定は、自分で決めてください。」
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