Memory Puzzle
記憶をなくす前までは、お父さんの事を嫌いだなんて、思った事が無かった。確かに昔から無愛想だったけど、悪いお父さんでは無かった。毎年家族旅行にも連れて行ってくれる、優しいお父さん。だけど、あの時の事が重なって、今では怖いと感じる。
記憶をなくす前までは、秋の事が好きだった。毎日、学校に通うのが苦痛だった私にとって、秋と過ごす時間を増やす事を理由に学校に通ってた。でも、記憶を無くしてからは秋にそんな感情を抱かなかった。逆に、すばるくんに恋をしていた。今の私には、秋に会う権利なんて無い。
私は立ち上がり、机の上に置いていた秋の連絡先を書いた紙を、ビリビリに破った。もう何が書いてあるか分からないくらい、もうもとには戻せないくらいビリビリに…。それを、近くのゴミ箱に捨てた。
私は、もう自分の気持が分からなくなっていた。目を瞑ればいつも、お母さんの温もりと海の味が私を襲う。とても苦しいのに、何故かあの時から涙は出ない。涙が枯れるって、こういう事を言うのだろう。
私の口からは、溜息ばかり漏れていく。その時、部屋をノックする音が聞こえた。
「誰?」
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