これを愛と呼ばぬなら

 この日を境に、藤見さんは明らかに変わった。


 朝、次々と登園してくる子ども達を受け入れ、外遊び用のエプロンと帽子を被せて順々に園庭に送り出す。園舎の入り口で、視線を感じたような気がして顔を上げた。

 正門から植え込み、遊具の間と順々に目を凝らす。

「いやっ……」

 道路側に植えてあるシマトネリコに視線を合わせ、大声が出そうになるのを必死で堪えた。

 木々の隙間から、ジッと園内を覗く人がいる。ついさっき悠祐くんを送り届けたはずの藤見さんだった。無表情でジッとこちらを見ている。彼の視線の先に、愛息である悠祐くんはいない。


 ほの暗い視線に、閉じ込めたはずの記憶があふれ出てきた。

 じっとりと纏わりつくような視線、荒く弾む息、のしかかる汗ばんだ体、私の両手を押さえつける尋常じゃない力。

 脳裏にチラつく映像と、リアルによみがえる感触。背中にぞくりと悪寒が走り、頭から血の気が引く。

「うっ……」

 胃の中のものがせり上がってくるような気がして、私は咄嗟に両手で口元を押さえた。


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