これを愛と呼ばぬなら
「潮月先生どうした。具合悪い?」

 座り込みそうになる私の片腕を掴んだのは、鈴木先生だった。心配そうな顔で私を覗き込んでいる。

「……ごめん、ちょっと立ちくらみがして」

「貧血? めちゃくちゃ顔色悪いよ。子ども達なら私が見てるから、休憩室でちょっと横になってきたら?」

「少し休めば大丈夫だから……」


 鈴木先生に支えられたまま、目を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返す。鈴木先生が、私の呼吸に合わせて、優しく背中をさすってくれる。背中を滑る彼女の体温が心地よくて、胸のつかえが取れたような気がした。


「鈴木先生ありがとう。もう大丈夫」

 そっと目を開けて恐る恐るシマネトリコの方を見ると、藤見さんの姿はきれいさっぱり消えていた。


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