これを愛と呼ばぬなら
藤見さんの行動は、少しずつエスカレートしていった。
送り迎えの合間にどこに住んでいるのか聞いてきたり、連絡先を聞き出そうとしたり。他の人の目を盗んでしつこく食事に誘われたこともある。
「ああ、発表会前で忙しいですもんね」
誘われるたびにきっぱりと断っているが、藤見さんは全く聞く耳を持とうとしない。私が本当は誘いを受けたいのに、忙しいから断っているのだとでも思い込んでいるようだ。
休日、スーパーで鉢合わせた時は、心底ゾッとした。
「美沙先生、奇遇ですね。お住まいこの近くなんですか?」
ちょうど会計を済ませ、スーパーから出ようとしていた時だった。背後から、藤見さんの声がする。
「……ひっ」
後ろを振り向くことなく、そのままスーパーから逃げ出した。夕方の商店街を全速力で走り抜ける。後もう少しで自宅マンションに着くというところで、ハッと気がついた。
このままマンションに向かったら、藤見さんに私の住んでいるところが知られてしまう。
私はマンションを横目に通り過ぎ、角を何度か曲がり偶然見つけたコンビニに逃げ込んだ。
雑誌売り場の物陰に隠れ、外を窺う。数秒後、辺りをきょろきょろと見回しながら歩く藤見さんが姿を現した。
身を屈め、息を殺すこと数分。藤見さんの姿が完全に見えなくなったのを確認して、私は急いでマンションへ戻った。