これを愛と呼ばぬなら
「もうちょっと様子を見てみましょうよ。万が一勘違いだったら、恥をかくのは貴女の方よ?」

 園長は取り繕ったような笑みを浮かべ、そんなことを言う。私はグッと拳を握りしめ、「……わかりました」と力なく呟いた。


「ねえ、どうだった?」

 受け持ちのクラスに戻る途中で、隣のクラスから鈴木先生が顔を出した。子どもたちはまだお昼寝の最中で、あたりはシンとしている。

 鈴木先生を見て、私は無言で首を振った。鈴木先生は「嘘でしょ?」と目を丸くする。

「園長ってば、なにもしてくれないの?」

「そうみたい」

「ああ、そういうことか……」

 多くを語らなくても、鈴木先生も事情を把握したようだった。

「潮月先生、どうするの?」

「不安はあるけど……、気をつける。藤見さんがいる時は一人にならないとか……。あとはできるだけ刺激しないようにする」

「お迎えの時とか、私も顔を出すようにするから」

「うん、ありがとう鈴木先生」

 園側が何もしてくれないのなら、自分の身は自分で守るしかない。鈴木先生にお礼を言って、私は子供たちが待つ教室へ戻った。

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