これを愛と呼ばぬなら

 次の休日、藤見さんのこともあって欝々としていた私は、気分転換に外出することにした。

 財布やメイクポーチにハンカチ、それにちょっとした仕事道具をトートバッグに詰め込む。
チェストの上に置いてあるトレイから部屋の鍵を取ろうとして、小さな空色の箱が目についた。

 雨に打たれ、すっかり色あせてしまったその箱を、どうすることもできないまま、私は部屋に置いている。

 あの男の人は、どうしているだろうか。

よほどショックなことがあったのだと思う。土砂降りの中立ち尽くしていた姿と悲し気な瞳が、今でも目に焼き付いて離れない。

「いつか、あの人のところに帰れたらいいね」

 ぽつりと呟いて、そっとその箱を撫でる。

 鍵を取って、私は部屋を出た。


 外に出てみると、空気は冷たいけれど日差しはぽかぽかと暖かい。散歩でもしたい気分だったけれど、藤見さんのこともある。私は注意深く辺りを窺い、足早に通りを歩いた。
 
 マンションから五分ほど歩いた閑静な住宅街の一画に、私が目指すお店はある。

 建ち並ぶ住宅の中で、一際目を引くこんもりとした緑と温かみのあるログハウス。常連客からは『ライブラリー』と呼ばれ親しまれているそのカフェは、まるで図書館のように店内にいくつもの書棚が設置してある。

蔵書も幅広く充実していて、美味しいお茶やスイーツをいただきながら、本を片手にゆったりとした時間を過ごすことができる、私のお気に入りのカフェだ。

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