これを愛と呼ばぬなら
「こんにちは」

「あら、いらっしゃいませ美沙ちゃん。久しぶりね」

 迎えてくれたのは、この店のオーナーである優子(ゆうこ)さん。私の母親とたぶん同年代だと思う。
いつ来てもにこやかで、柔らかな雰囲気を持つ癒し系の美人だ。優子さんの焼くケーキやパイは素朴だけれど美味しくて、ファンも多い。

「美沙ちゃんいらっしゃい。安心したよ。仕事が忙しいのかなって二人して心配してたんだ」

 優子さんの声を聞きつけたのか、奥の厨房から旦那さんの久志(ひさし)さんが顔を出した。お客さんも多いみたいだし忙しいのか、片手にコーヒーポットを持ったままだ。

「ご心配かけてすみません。発表会前でずっとバタバタしてて。ちょっと気分転換がしたくなったんです」

「いいのよ。そんな時にここを思い出してくれて嬉しいわ。ね、久志さん」

「そうだね。さあ、座って座って。すぐに水持って行くから」

「あ、私がやるわ。大丈夫」

 はりきってトレイに手を伸ばそうとする久志さんを、優子さんが柔らかく制した。

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