これを愛と呼ばぬなら
「私なら、ちょっとくらい濡れても平気です。うちはすぐそこなので」

「ありがとう、ございます……」

 両方の手で傘を握らせてから手を離すと、彼はようやく私と目を合わせた。そして、気がついた。


 とても強く、美しい目をした人だ。

 頼りなく光る街灯の下、漆黒の瞳が、悲しみに濡れている。そのことが、なぜかひどく私の胸を締めつけた。

 正面から顔を合わせ言葉を失っていると、彼は深く頭を下げて、私の前から静かに立ち去った。


 私の赤い傘を差した後ろ姿が、暗闇に溶けていく。その姿を見送っていて、ふと、足元に何かが転がっているのに気がついた。

 空色のペーパーで綺麗にラッピングされた小さなプレゼントが、雨に打たれて見る間に色を変えていく。慌ててそれを拾い上げた。


「あのっ!」

 彼の姿は、とっくに見えなくなっていた。


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