これを愛と呼ばぬなら
「悠祐くん、おはようございます。そんなところでどうしたの?」

 悠祐くんの表情は硬く、返事もない。

「教室に入ったら?」

 緊張を解そうと彼の肩に触れようとすると、悠祐くんにいきなり手を振り払われた。

「……悠祐くん?」

 悠祐くんが信じられないものでも見るような顔で、私を見る。私が近づこうとすると一歩後ろに下がり、口を開いた。

「……美沙先生は、ぼくのパパを取っちゃうの?」

「えっ? 悠祐くん何を言って……」

「いったいどういうことなのよ!」

 突然、職員室の方から女性が叫ぶ声が聞こえてきた。続けてガチャン! と何かが落ちる音がする。廊下に出ると、子供達や保育士、子供を送って来た保護者が職員室を覗き込んで騒然としていた。

「みんな、先生が様子を見てくるからここで待ってね」

 大きな音に驚いている子供達に教室にいるよう言い含め、職員室へ向かう。

「すみません、ちょっと通して……」

 どういうわけか、私が声をかけるとサッと道が開いた。異様な雰囲気に思わず息を呑む。誰もが私のことを尖った視線で見ているような気がした。

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