これを愛と呼ばぬなら
 事前に相談してくれてたのに、と母は私に泣いて詫びた。母から父へ話もしていてくれたようで、一応私の方に非はなかったということで話はついたし、先生のご家族と父の知人から正式な謝罪もあった。

 しかし父は、その後しばらくして子会社への出向を命じられた。栄転とは名ばかりの、事実上の左遷だったらしい。このことに、父の知人が関係しているのかははっきりわからない。でも私は、全部自分のせいだと思った。

 危険を感じていながら、母の言葉に流された自分が悪い。自分で自分の身を守り切れなかった自分が悪い。そして何より、男の人の気を引いてしまう自分が悪い。自分がひどく汚らわしい人間に思えて仕方がなかった。


 しかし、自分を責めていたのは、私だけではなかった。たぶん父も母も、こうなることを未然に防げなかった自分を責めていた。そして心のどこかで、私のことも。

 その後、家の中は何かが変わってしまった。父は仕事を言い訳に家を空けることが多くなったし、おおらかだった母も、めっきり口数が減ってしまった。

 ぎこちない雰囲気に耐えきれなくなった私は、短大への進学を理由に実家を出た。

 要は、逃げ出したのだ。

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