これを愛と呼ばぬなら
涙雨、濡らす
紺色の傘を閉じ、もう三年ほど愛用しているグレーのチェスターコートについた雨粒を払う。鉛色の空を見上げ、一つため息を吐いた。
最近、発表会の練習に時間を取られてばかりだったから、たまには子どもたちに思いっきり外遊びをさせてあげたかったのに。この天気じゃ、今日も教室から出られそうにない。
園舎の裏口から入って表玄関の方へ回ると、早番の先生が子どもたちの受け入れに出ていた。
私、潮月美沙は、私立北陽保育園に保育士として勤務している。高校卒業と同時に地元をでて、保育系の短大に進み、この園に就職した。今年でもう六年目になる。
「おはようございます。お疲れさまです」
「あ、潮月先生おはようございます。今日は一段と冷えるわね」
「本当ですね。発表会前だし、風邪引きさんが出なきゃいいんですけど……」
「あー、確か村口先生が何件か病欠の電話受けてたと思う。潮月先生もあとで確認してみて」
「わかりました。ありがとうございます」
お礼を言って、職員室の隣の更衣室に入る。自分のロッカーを開け、着替えていると、同期の鈴木先生こと鈴木めぐみが入って来た。