これを愛と呼ばぬなら

 春楡の木陰で、自分があの時から何も変わっていないことに気がついた。

 今回も私は、戦うことなく園から逃げ出した。一方的に責められて、話を聞いてもらえないからと、自ら保育士という大切な仕事を投げ出した。

 あげく、子供と向き合うことが怖くなるなんて。私は少しも成長していない。そんな自分に自分で辟易してしまう。

「……変わりたい」

 思わず呟いて、顔を上げた。目の下あたりにポツリと何かが触れるのを感じる。

「あ、雨」

 薄曇りだった空の色が少し濃いグレーに変わっていて、ポツポツと雨が降り出した。ベンチに立てかけていた傘を開く。私の頭上だけ、空が赤く変わった。


 園を辞めた次の日、新井さんとライブラリーで会う予定だった。突然の出来事に動転していた私は、新井さんとの約束をすっかり失念していた。

 思い出したのは、約束の日から一週間も経った後。その日、私は開店時間を待ってライブラリーに駆け込んだ。

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