これを愛と呼ばぬなら
定時で仕事を終えた後、私は新井さんからのメッセージで指定された会社の地下にあるという役員専用駐車場へ向かった。役員専用というだけあって、並んでいるのは高級車ばかり。まるでショールームのような光景に気後れしてしまう。
落ち付かない気持ちで辺りを見回していると、役員専用エレベーターの扉が開き、中から長身の男性が出て来た。
「潮月さん、お待たせしてごめんなさい」
私を見つけ、ふわりと微笑む。社長の姿をした新井さんだった。
「いえ、私も今来たばかりなので……」
「よかった。行きましょうか、車はこちらです」
促され、新井さんの後を追う。コツコツと二人の足音が誰もいない駐車場に響いた。
「来てもらえてよかった。メッセージにすぐに返信がなかったからちょっと焦りました。スケジュールがはっきりしなくて、なかなか連絡できなかったのであなたを怒らせてしまったのではと」
「それはないです。新井さ……社長がお忙しいのは承知していますので」
響いていた足音がピタリと止まる。つられて足を止めると、新井さんが私を振り返った。
「……二人でいる時は、社長と呼ぶのをやめませんか。なんだか息が詰まる」
「すっ、すみません」
いくら知り合いとはいえ、以前のように呼ぶ方が失礼なんじゃないかと思ったけれど、確かにプライベートでも社長と呼ばれるのは窮屈かもしれない。
「それじゃあ、新井さんで」
「ええ、お願いします」
新井さんはふっと微笑むと、胸ポケットから車のキーを取り出した。