これを愛と呼ばぬなら
「彼は薮内。大学の同期なんだ。元ラガーマンで商社勤めだったのに、料理に目覚めてシェフになった変わり者。長い間海外で修業して、最近地元で店を開いたんだ」

 元ラガーマンと聞いて納得する。ちょっと圧倒されるほどの体の大きさだ。

「はじめまして、薮内です。ご来店ありがとうございます」

「潮月です。今日はよろしくお願いします」

 視線が合うと、薮内さんが私の顔を見てニッと口角を上げた。

「なんだよ新井、珍しく人を連れて来るなんて言うから何かと思えば、こんなに美人さんを連れて来るなんて。ひとりものの俺に対する当てつけかよ」

「うるさいな。彼女は、そんなんじゃないよ。……俺の、恩人なんだ」

 新井さんの言葉に驚いて、顔を上げる。まさか、私のことをそんなふうに思ってくれていたなんて。

 新井さんは僅かに微笑んでうんと小さく頷いた。

「へえ、それじゃあ潮月さんのために今日はうんと腕を振るうかな。料理楽しみにしててね」

「はい、ありがとうございます」

 薮内さんは片手で手を振りながら、厨房の方へと消えて行った。

「ごめん、デリカシーのないやつで。悪い奴じゃないんだけど」

「いいえ、お料理楽しみです」

「そこはほんと、期待していいから。あいつ、腕は確かだから」

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