これを愛と呼ばぬなら
「潮月さん」
どれくらい経ったのだろう。気がつけば新井さんはさっきより近くに立っていて、私の様子を窺っていた。
「あ、すみません。ボーっとしていて」
「いや、俺の方こそ。放っておいてごめん」
「全然。私も海を眺めてましたし」
放っておいたという自覚があるんだな、と思うとなんだかおかしくなった。それに新井さんをそっとしておこうと思ったのは私の意志で、別に腹を立てているわけじゃない。
「そろそろ帰りますか?」
身につけている腕時計を確認すると、レストランを出てから小一時間ほど経っていた。
「いや、その前に……。潮月さん、例の持って来てる?」
「……あ、はい」
例の、とは新井さんが落とした指輪のことだ。私はバッグの中から空色の小箱を取り出すと、新井さんに手渡した。
暗くてわかりづらいけれど、雨に濡れた小箱はところどころ包装が破れ、すっかり色褪せている。新井さんは丁寧にリボンを解いて包装紙を取り外すと、ひしゃげた外箱の中から深い藍色のケースを取り出した。
ケースの蓋を開けると、中には大粒のダイヤモンドがついた婚約指輪が入っていた。
私は宝石やアクセサリーに疎いから、指輪の価値はよくわからない。でも、彼の手のひらの中の指輪は、この薄明るい夜の中でもハッとするほど美しかった。
どれくらい経ったのだろう。気がつけば新井さんはさっきより近くに立っていて、私の様子を窺っていた。
「あ、すみません。ボーっとしていて」
「いや、俺の方こそ。放っておいてごめん」
「全然。私も海を眺めてましたし」
放っておいたという自覚があるんだな、と思うとなんだかおかしくなった。それに新井さんをそっとしておこうと思ったのは私の意志で、別に腹を立てているわけじゃない。
「そろそろ帰りますか?」
身につけている腕時計を確認すると、レストランを出てから小一時間ほど経っていた。
「いや、その前に……。潮月さん、例の持って来てる?」
「……あ、はい」
例の、とは新井さんが落とした指輪のことだ。私はバッグの中から空色の小箱を取り出すと、新井さんに手渡した。
暗くてわかりづらいけれど、雨に濡れた小箱はところどころ包装が破れ、すっかり色褪せている。新井さんは丁寧にリボンを解いて包装紙を取り外すと、ひしゃげた外箱の中から深い藍色のケースを取り出した。
ケースの蓋を開けると、中には大粒のダイヤモンドがついた婚約指輪が入っていた。
私は宝石やアクセサリーに疎いから、指輪の価値はよくわからない。でも、彼の手のひらの中の指輪は、この薄明るい夜の中でもハッとするほど美しかった。