これを愛と呼ばぬなら
新井さんは手のひらに乗せた指輪をしばらく弄んだあと、静かに私を見た。寂し気な笑みを浮かべ、口を開く。
「覚えていますか、潮月さんがライブラリーで言ったこと」
「……もちろん、覚えています」
ライブラリーで偶然再会したあの日、私は新井さんに『指輪と一緒に区切りをつけるべきだ』と言った。だから、指輪はあなたに返す、と。そうすれば、彼が苦い過去を乗り越え、前に進めると思ったからだ。
「あれから俺なりに考えたんです。どうすれば過去に区切りをつけられるのか」
新井さんは指輪をきゅっと握りしめると、大きく腕を振り被った。
「……え?」
困惑する私に一瞬微笑むと、思いきり腕を振る。彼の手の中にあったはずの指輪は、あっという間に暗い波間に溶けていった。
「新井さん、あなたなんてことを!」
私には想像もできないくらい、きっと高価な指輪のはずだ。何より、新井さんの想いがこもった大切な指輪なのに、海の中に投げ捨ててしまうなんて。
「潮月さんっ!」
思わず海の中に入ろうとした私の腕を、新井さんが掴んだ。
「何してるんですか!」
「何って、指輪! 探さなきゃ!」
「無理だよもう。見つかるわけないだろ」
「でも」
「覚えていますか、潮月さんがライブラリーで言ったこと」
「……もちろん、覚えています」
ライブラリーで偶然再会したあの日、私は新井さんに『指輪と一緒に区切りをつけるべきだ』と言った。だから、指輪はあなたに返す、と。そうすれば、彼が苦い過去を乗り越え、前に進めると思ったからだ。
「あれから俺なりに考えたんです。どうすれば過去に区切りをつけられるのか」
新井さんは指輪をきゅっと握りしめると、大きく腕を振り被った。
「……え?」
困惑する私に一瞬微笑むと、思いきり腕を振る。彼の手の中にあったはずの指輪は、あっという間に暗い波間に溶けていった。
「新井さん、あなたなんてことを!」
私には想像もできないくらい、きっと高価な指輪のはずだ。何より、新井さんの想いがこもった大切な指輪なのに、海の中に投げ捨ててしまうなんて。
「潮月さんっ!」
思わず海の中に入ろうとした私の腕を、新井さんが掴んだ。
「何してるんですか!」
「何って、指輪! 探さなきゃ!」
「無理だよもう。見つかるわけないだろ」
「でも」