これを愛と呼ばぬなら
「いいんだ、これで」

 振りほどこうともがいていた腕を、きつく握られた。

「新井さん……?」

 彼は私の腕を掴んだまま、こちらをジッと見つめている。物言いたげな暗い瞳に、ハッと息を呑んだ。

「……区切りをつけろと言ったのはあなただ。他にどんな方法がある?」

「だからって、何も海に投げ捨てなくても」

「それなら、大事に机の中にでも仕舞い込んでいればよかったのか?」

 いつも温厚で、朗らかな新井さんらしくない。悲痛さを滲ませた瞳で私を見ると、彼は力なく呟いた。

「……手元に置いておくなんて無理だろ。指輪が視界に入るたび、彼女にしたことを思い出してつらくなる」

「新井さん……」

「それに、自分が感情の欠落した不完全な人間だって思い知らされる。もう、嫌なんだ」

 私の腕を握る手に、きゅっと力がこもる。

 波の音に掻き消されそうになるくらい、小さな声だった。でも私は、確かに彼の声を聞いた。

「……変わりたいんだ、俺は。もう誰のことも悲しませたくない」

 絞り出したかのような、低く重い声。でも、彼の後悔や想いが痛いほど伝わってきて、私は彼の言葉に胸を掴まれた。

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