これを愛と呼ばぬなら
 人は一つの恋愛を終えた時、こんなにも苦しむものなのだ。私は、何もわかっていなかった。

 たぶん私は、嬉しかったのだ。……初めて男性と対等に話ができた気がして。新井さんが話を聞いてくれたのをいいことに、彼の気持ちなんて考えず、一端(いっぱし)にアドバイスをしたつもりでいた。

 恋愛の経験もないくせに、私は何を調子に乗っていたんだろう。

「……ごめんなさい」

 じわじわと後悔が押し寄せる。掴まれた腕が痛い。でももう無理に振り払おうとは思わなかった。

 この痛みは、相手を思いやることを忘れた私への罰だ。

「……俺の方こそ、カッとして悪かった」

 うつむく私に告げると同時に、新井さんの手が離れた。離されても、彼の手の感触がはっきり残っている。それを無意識に反対の手でなぞっていた。


「痛かったよな、本当にごめん」

 手に触れたまま、首を左右に振る。優しい言葉をかけられるほど、申し訳なさが募った。

「私が……無神経でした。新井さんの気持ちも考えないで勝手なことを言って」

「……いや、それは」

「だって、指輪を手元に残しておけないほど、つらかったんですよね」

 新井さんは、彼女に対して抱いていたのは愛情ではなかったと言った。実際、彼女からそう言われたのだとも。だから私は、彼のダメージはそこまで深くないのだと勝手に判断していた。

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