これを愛と呼ばぬなら
新樹光
ゴールデンウィークを過ぎて、木々の緑がさらに眩しくなった。
新井商事で派遣社員として働くようになって一ヶ月。仕事にはだいぶ慣れたと思う。
「おはようございます」
「おはよう。今日もいい天気だね」
「そうですね。日中は暑くなるみたいですよ」
「え、そうなの? 俺暑いの苦手なんだよなぁー」
「ふふ、夏バテにはまだ早いですよ。栄養あるもの食べて頑張ってください」
「そうするよ」とげんなりとした顔で歩いて行くのは、総務課の課長さんだ。人懐っこい人で、私達にも気安く話しかけてくれる。
ひと月も経つと顔見知りの社員さんも増え、受付からの挨拶も一方通行ばかりではなくなった。
「すっかり慣れたわねー」
「そうですか?」
完璧な笑顔でお辞儀をしながら、依里子さんが話しかけてくる。
「うんうん。最初はぎこちなかったけど、笑顔もだいぶ自然になったし。社員さんとのコミュニケーションもばっちり」
「……よかった。ホッとしました」
依里子さんを見習って、受付らしく、笑顔を欠かさず張りのある声で話すよう心掛けている。成果があったようで嬉しい。