これを愛と呼ばぬなら


 私がつい暗めの服ばかり選んでしまうのには、理由がある。あまり目立ちたくないのだ。


 一見華やかな顔立ちのせいか、学生の頃から見知らぬ男の人に声をかけられることが多かった。友達の彼氏に一方的に言い寄られ、はっきりと断ったにも関わらず、その友達とトラブルになったこともある。その度に、友人たちは私から離れて行った。

 これまで一度だって、私の方から男性に向けて何か行動を起こしたことなんてない。でもいつの間にか、私の方が悪者になっていることがほとんどだった。先生とつきあっているとか、援交をしているのを見かけたとか、見に覚えのないことを言いふらされたこともある。


 欲は言わない。保育士という好きな仕事をとにかく頑張って、あとは静かに過ごしていたい。何かと心配してくれる鈴木先生には悪いけど、そのためには、こうして目立たないようにすることが一番賢明なのだと、私は今も思っている。



 目立たないように、目敏い誰かに見つからないように。そう思って生きてきたのに、静かで満ち足りていた毎日は、ある日突然、音を立てて崩れた。


< 7 / 83 >

この作品をシェア

pagetop