きみの見える景色には桜とわたしであってほしい。
どうやら、不幸というものは1回では終わってくれないらしい。


勇気を出してカウンターの前に立ったものの、シャープペンシルの芯が出てくれないのだ。


本を返却するにはカードに返却日を記入する必要がある。


2本目、3本目・・・どのシャープペンシルを押しても芯は出てくれなかった。


仕方なく、教室に戻って自分のを持ってこようと思った時、


「芯、出なかった?わるい、替えんの忘れてた。俺の使って」


はい、とわたしの目の前に差し出されたのは彼が中1の時も使っていた、


シンプルな形状の真っ黒なシャープペンシル。


「いい、よ。とってくるし」


ああ、もう!


素直じゃないなあ・・・。


約1年ぶりの会話は思わぬところからやってきた。


びっくりしすぎて、思わず本心と真逆のことを口にしてしまった。


こういう時に、素直にありがとう、って言えればなあ・・・。


やっぱり恋、って難しい。


後悔ばかりだ。


「いやいや、ここにあんだからわざわざ取りに行く必要ないっしょ。お前、そういうとこあるよなぁ・・・その、頑固なとこ直せよ」


落胆するわたしにかけられた言葉は、思いがけない言葉だった。


ほんとうに思いがけなさすぎて、腰を抜かしてしまうかと思った。


覚えててくれていた・・・わたし、を?


単純に、びっくりした。


彼の中に、わたしが少しでも残っていてくれていたんだ。


ちょっとだけ、期待してもいいのかな。


顔は多分、いや絶対赤いけど、そんなのはどうでもよかった。
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