幼馴染み。
次の日になっても、体調は良くならなかった。
お母さんは仕事で帰れないみたい。
こんな時、いつも頼りにしていた人も今日は大事な人と過ごしている。
あたしは…ひとりぼっち。

「ミユ!」

聞き慣れた声。
コウがあたしを呼ぶ。
いつもみたいに無邪気に走ってきて。
…懐かしい。

不意にあたしの頭を誰かが撫でた。
夢…?

「目覚めた?」

うそ…。

「心配だから来ちゃった。薬買ってきたよ」

いつもと変わらない優しい笑顔。
…コウ、だ。

「今日彼女の誕生日じゃ…」
「病人ほっとけないだろ。熱は?」

…ずるい。
優しくしないで、期待させないで。

「お前は特別だから」

こんな時にあたしを優先して駆けつけてくれる優しい人。
彼の言う特別は、幼馴染みとしてだってことわかってる。
だけど、もう。

「すき」
「…え?」

溢れる。

「あたし…コウが好き」

彼女のいる男の子。
家が隣、当たり前に近くにいた存在だから気づけなかった。

「ずっと好きだったっ…」

言葉にすると、涙が止まらなかった。
だって、わかってるもん。
あたしのこと女として見てないことも、彼女のこと大好きなのも。

「ミユ…」

だけど、彼が優しく抱きしめるから、しがみついて声を上げて泣いた。

「ありがとう…ごめん。」

どちらかが異性として見てしまったらもう友達には戻れない。
抱きしめられる力が強くて、これが最後なんだって実感する。
それを覚悟して言った、ちゃんと伝えた。
後悔なんてないよ。

夏を待ち望む優しい風が、あたしとコウを包み込んだ。
初めて人を好きになって、愛することを知った16歳の夏。

彼女のいる幼馴染みに恋をした。
ある夏の出来事。
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