へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「うぅ……怖いっ」
ローファーを埋める枯れ葉を踏み鳴らしながら、足を止めることなく必死に動かす。
あちらこちらで大木が両手を広げ、私の行く手を阻んでいるかのようだ。
何かに追われているわけでもないのに、誰かに追いかけられているような気がして何度も後ろを振り返る。
いや、怖がっている場合なんかじゃない。
早く森を抜けなきゃ、テストには間に合わない。
神様どうかお願い、魔獣にだけは絶対に出会わせたりしないで。
ついでに幽霊とかにも。
肩で風を切るように走り続けると、遠くから陽の光と共に、白い外壁の洋城のようなフォルスティア学園が木々の隙間から見えてきた。
もうすぐで森を抜けられる。
このまま教室まで全力で走り続ければ、ギリギリ間に合う。
額を滲ませる汗を拭い、荒く息を吐きながら、残りの体力を振り絞り足を速める。
フォルスティア学園が見える森の出口までは、もう目と鼻の先の距離だ。
だけど何か、嫌な気配を感じる。
出口の手前まで来て、急ブレーキをかけるように足を止めた。
目を凝らしてみると、出口を塞ぐようして、黒い煙のようなものが宙を漂っている。
「こ……これはっ⁉」
黒い煙は空気中の一箇所に吸い寄せられるようにして、徐々に量を増していく。
そしてみるみるうちに、ゾウほどの大きさまで膨れあがっていく。
やがて巨大な黒い塊は犬にも似た姿へと変わり、真っ赤な目をギラギラと光らせる。
それは、鋭い牙を剥き出しにしているいかにも凶暴そうな巨大な犬だった。