へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「えっ……まさか魔獣…⁉」
黒く巨大な犬は、赤い眼で鋭く私を睨みながら、低い唸り声をあげている。
今にも喉元に噛みついてきそう。
けれどまだ、威嚇だけに留まっている今はチャンスかもしれない。
魔法で攻撃をしかけるなら、このタイミングしかない……!
魔法を使うにあたって大切なことは、使いたい魔法をしっかりと頭の中で思い描き、ほんの少しの余念ももたないこと。
そのために必要なのは、どんな状況にたたされても、冷静でいられる強い心。
目の前の魔獣に怖がったらダメだ……。
集中、集中しなくては!
小刻みに震える手を強く握りしめ、目の前で牙を光らせている犬に鋭い視線をかえした。
「神より与えられし力よ、我が糧となれ。その力をいま、解放する!」
震えが止まらない右手。
高々く天へ突きあげる。
手の平からは勢い良く大きな炎が飛びだしてきて、渦を巻きながら敵の頭部に直撃!
というイメージを、脳内で瞬時に描いた。
「炎よ、敵を貫け!」
天にかざした手を勢い良く振り下ろすと、イメージのとおり手の平が噴火口になったかのように、勢い良く炎が敵にむかって……。
……いくどころか、犬にむかって開かれた右手からは、小さな火の粉すら出てこない。
あれっ。
どうして?
イメージははっきり持っていたし、詠唱中は魔法のことだけを考えるようにしていたのに。
「ちょっ……なんで⁉なんで出ないの⁉」