へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする


巨大な犬は一層低い唸り声を響かせると、土を前足でかきあげた。

狙いを定めているかのような、鋭い眼光が私へ注がれる。



やばい……やる気満々じゃん…。

でも、もう一度魔法を詠唱している時間なんてなさそう。



となればもう、私に選択肢はひとつしか残されていない。

逃げる、の一択。



巨大な犬が放った殺気立つ咆哮が、空を引き裂くように森中へこだました。

その瞬間、慌てて踵を返し一目散に走りだす私。



「だっ……誰か助けてーっ!」



助けを呼ぶ声は虚しくも、遠ざかっていく学校に届くことはなく深い森の中へ消えていく。



後ろを振り返れば、鼻息を荒くさせた巨大な犬が口を大きく開きながら私の背を追っている。

木々を避けながら走る私と、まるで幽霊のように木々をすり抜ける巨大な犬との距離が、みるみるうちに縮まっていくのがわかった。



真後ろから聞こえるのは、枯れ葉を踏みつける音と地の底から沸きあがるような低い唸り声。



食べられちゃうっ……!

それでもどうにか、反撃できる隙を見つけなきゃ!

逃げきるには体力が持たないし、何より犬の足が速すぎる!



ちらりと背後に目をやり、反撃できそうなタイミングを伺うと、

「あっ……!」

太い木の根に躓き、牙を光らせる巨大な犬の前で転んでしまった。

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