へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「ごめんなさいねぇ……力になれなくて」
湖の周りを犬と散歩していたおばさんに、ルキとふたりで「ありがとうございました」と頭を下げた。
「はぁ……ちょっと疲れてきたなぁ」
「ごめんね、メイベル。とりあえず中心部にでも行って、休憩がてら昼食にするかい?」
50人のツアー客の中にもルキを知る人は現れなくて、その付近にいた30人のツアー客の中にもいなかった。
あとは片っ端から時計台の付近を歩く人に、ルキが記憶喪失なことを説明しながら聞きこみをしてみたけれど、有力な情報を得られず。
こうなったら、テレビ局に行ってルキのことを放送してもらえないかと頼んでみようかな?
ベンチに座って湖に浮かぶ3羽の白鳥を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていると、ふいにルキに顔を覗きこまれた。
「あっ……うん、そうする…」
ルキは「じゃあ行こうか」と目尻にシワを寄せて微笑むと、ベンチから軽やかに立ちあがった。
広い湖を沿うコンクリートの道を歩きはじめたルキの背中を、ドキドキと胸を高鳴らせながら追いかける。
ルキは私の歩調に合わせて歩くペースを落とすと、ゆっくりと隣を歩いてくれる。
湖を眺めながら、ふたりでゆったりと歩いている。
これってなんだかデートみたい。
やだ……急に恥ずかしくなってきたっ。
「なんかこの景色、見たことがあるような気がするなぁ」
熱気を帯びた顔を俯かせながら歩いていると、ルキがぽつりとそんなことを洩らした。