へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「そうなの…?もしかして何か、思い出したの?」
俯けていた顔を上げると、ルキは湖を無表情のまま、遠くを見るような瞳で眺めていた。
ルキは「ちょっとだけ」と寂しそうに笑うと、ぽつり、ぽつりと話しはじめた。
「誰かの隣にいたような気がする。隣にいる誰かは楽しそうに釣りをしていて、俺は湖を見るでもなく、楽しそうな横顔をじっと見てた」
「それが誰なのかは思い出せないの…?」
その人物が誰なのかわかれば、ルキの素性がわかるかもしれない。
ルキは故郷に帰れるかもしれない!
だからどうか思いだして!
と祈るような目を注ぐ。
「それが思い出せないんだ。でも、俺にとっては大切な人だった。何があっても守ってあげなきゃって思えるような、大切な人」
「えっ……?」
湖を見つめたまま答えたルキは、やっぱり寂しそうに笑っていた。
「大切な人…?もしかして、ルキの彼女とか…?」
ルキの口から飛び出した「大切な人」という衝撃的な言葉が、私の頭を一瞬でぐちゃぐちゃにした。
なにそれ、どういうこと?
ルキが守ってあげたいって思っている人?
有名な観光地でもあり、同時に有名なデートスポットでもあるこの湖で一緒にいた人?
「それは男なの?女なの?」と責めるような口調で聞き返してしまった私の視界は、涙でぐらぐらと揺らいでいた。