へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする


ジェニファーさんはしばらくの間、赤い瞳でルキを睨みつけたまま動かなくなった。

そしてルキの頭の上に乗せていた右手をおろした瞬間、瞳の色がライトブラウンに戻った。



「駄目だ…脳にかけられた防衛魔法を突破することができない。かなり手厚く防衛魔法をかけているようだね。少し休憩して、次はフルパワーで…」

「すみません、ジェニファーさん。外でお客さんが待たれていることだし、これ以上はいいですよ。お客さんを占う前に、あなたの魔力がなくなってしまいます。メイベル、商売の邪魔をしては悪いからそろそろ帰ろう」



全力疾走をしたあとのように呼吸を荒らげるジェニファーさんに対して、ルキは笑顔で「ありがとうございました」と頭を下げ、席を立った。



「防衛魔法が崩せなくて悔しいけど……でも、ハンサムくんの言うとおりだね。魔力を使い果たしてしまうわけにはいかないから、悪いけどこれ以上はやめとくよ」

「無理いってごめんなさい、ジェニファーさん。そうだねルキ、そろそろ帰ろっか」

「悪いねぇ、おふたりさん」



占い館を出る間際に、ジェニファーさんがこんなことを教えてくれた。



ほんの少しずつでも過去を思い出すことができているのなら、近いうちに過去をすべて思い出すことができるかもしれない、と。

脳内から記憶が消えてしまったとしても、心の奥底ではしっかりと思い出として残っているからだ、と。



「だから大丈夫。何かキッカケさえあれば、ハンサムくんの記憶は蘇るはずだよ。防衛魔法が自然に壊れる日はきっと近い」

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