へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
キッカケさえあれば、か。
湖の周りを歩いていたときのように、強い思い入れのある場所に行ったり、その大切な人に鉢合わせたりなんかすれば、ルキの記憶が戻るということか。
記憶が戻ればルキは、私のそばからいなくなってしまうかもしれない。
占い館を出てからもずっと、ジェニファーさんの言葉が頭から離れなくて。
フォルスティア学園前に停車したバスから降りたあとも、ジェニファーさんの言葉を思い返しては、また深いため息が洩れる。
「なんだか元気がないね、メイベル。さっきからため息ばかりだよ」
茜色に染まる空の下で隣を歩くルキを見れば、ルキはまた心配そうに眉を八の字に下げて笑っていた。
「ルキに記憶が戻れば、住んでいた場所に帰るんだよねって思ってさ。そうなったら私たちはもう、会えないのかな?」
校長先生が言っていた。
もしかしたらルキは、遠くの町、もしくは国に住んでいたんじゃないかって。
ルキが遠くの故郷に戻ってしまったら、今のように、フォルスティア学園から寮まで真っ直ぐ伸びるこの白い小道を、一緒に歩くこともできないんだ。
もっと一緒にいたい。
離れ離れになんてなりたくない。
ルキのことを大好きだって思えば思うほど、もう会えなくなるんじゃないかという不安が色濃くなっていく。
「ルキの記憶が戻ればいいなって思う私と、やっぱりこのまま記憶が戻らなければいいのにって思う私がいて…。ごめんね、ルキ。ほんっと性格悪いよね、私…」