へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする


少年は2メートルの距離を保ったまま、やけに真剣な銀色の瞳を、まっすぐに向けてきた。



「それは……俺自身にも分からない」

「自分で自分のことが分からない?なにそれ…?名前も?」

「そう、名前も。なにもかも、ぜんぶだよ」



この人……いったい何を言っているの?

自分のことが分からないなんて、そんな何の捻りもない笑えない冗談…。

なんて思ったけれど、眉を八の字に下げたまま申し訳なさそうに笑う少年は、決して冗談を言っている雰囲気ではなさそう。



自分で自分が分からないというのは、きっと本当の話。

もしかして彼は、何らかの理由で記憶喪失になってしまった?



「どこからきたの?どうしてこんな森にひとりでいるの?あなたも魔法使い?私を助けてくれたのはあなたでしょ?」

「気付いたらこの森にいたってことしか分からない。自分のことで唯一わかるのは、魔法が使えるってことくらいだ。こんなふうに、君が魔獣に襲われているところを助けたんだ」



銀髪の少年は目を細め、柔らかな笑みを深めると、何を思ったのか突然右手を勢いよく天へ掲げた。



何をするつもり?

もしかして今から、魔法を使うつもり?



まさか私に攻撃をするつもりなんじゃ、と顔を強張らせながら、一歩ずつ距離をとった。

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