へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする


寮と学校を繋ぐ白い小道にはまだ人の気配はなく、いつもなら賑やかな通学路も今朝はやけに静かだ。

それはフォルスティア学園の校門を潜ってからも同じで、つきあたりに校長室がある1階の廊下も同じだった。



深紅色の絨毯が敷かれた廊下には、コツコツと、私の足音だけが反響している。

校長室の目の前まで来たところで、ようやく人の声が聞こえてきた。



「俺の魔獣をどこかに隠したのは母さんか⁉昨日マーグレーンにある実家の屋根裏を漁っていたら、昔母さんがつかっていた手帳を見つけたんだよ‼」



それは、校長室の中から聞こえてくるレックスさんの怒鳴り声だった。

びくり、と肩を揺らしドアを叩きかけた手を慌てて引っ込める。



え……なに。

親子ゲンカの真っ最中?



珍しくレックスさんが校内にいる、と思ったら何やら修羅場みたいだ。

これはまずいタイミングで来てしまったな、とドアから1歩、また1歩と距離をとる。



「さぁ……それは私の物じゃないからわからないわ」

「しらばっくれるなよ‼この筆跡は明らかにそうだろ‼なんだよ、レックスの魔獣は新しい生き方を見つけたって‼」



そういえば前にレックスさんは、話せる魔獣を探していると言っていたけれど。

創作主に忠実なはずの魔獣に、逃げられたんだって。

それはきっと、日々命令ばかりしていたから嫌気がさしてきたんじゃないかとレックスさんは言っていた。



でもそのレックスさんの見解は本当は違っていて、実は魔獣を逃がしたのは校長先生だということ?



ドアから遠のいていた足を、ゆっくり、ゆっくりとまたドアに近づける。

再びドアの目の前まで来ると、こげ茶色の艷やかなドアにぴったりと耳をくっつけた。

< 167 / 292 >

この作品をシェア

pagetop