へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
「そんな……信じられない。レックスさんにそんな過去があったなんて」
魔獣の専門誌『モデム』でレックスさんの存在をはじめて知ったとき、商店街の一角にあるレックスさんの店舗兼アトリエまで押しかけたことを思い出した。
雑誌で見たレックスさんがつくったという、ふわふわのウサギのような魔獣にひとめ会いたいがために、挨拶もなしに「魔獣を見せてください‼」と言ってしまったことがあったんだ。
レックスさんはそのとき、数えきれないほどのキャンパスが乱雑に置かれた部屋の真ん中で、何やら真剣な様子で絵を書いていた。
『おー、いらっしゃい。いいよいいよ、魔獣なら奥にある扉の向こうにたくさんいるから好きなだけ見て帰りな』
挨拶もなしに忙しいところに飛び込んでしまった失礼な私を、レックスさんは笑いながら温かく迎え入れてくれたことがあった。
それだけではなくて、魔獣をうまくつくれるようになるコツを教えてくれた。
『脳内でイメージするだけじゃうまくつくれない。つくりたい魔獣のイメージが決まったら、まずは絵を書いてみろ』
だから俺はこうして毎日のようにつくりたい魔獣の絵を書いている。
そう言いながら、大蛇のように身体をうねらせている龍の絵を見せてもらったこともあった。
私の中でレックスさんは凄い魔法使いで、明るくて気前がよくて、優しいイメージしかなかった。
「いいえ、メイベル。これはまだほんの序章だから。レックスは16歳になり更に魔力が高くなってしまって、これまで以上にもっともっと悪いことをするようになってしまったの」