へなちょこ魔女は、ぎんいろの瞳に恋をする
そうか。
だから校長先生は、レックスさんに内緒で龍を逃がしたんだ。
「魔獣なのに……優しい心をもっていたんですね」
「そう。だから私はあの龍に、レックスから離れて生活をしなさいって言ったのよ。レックスから離れて別の生き物に姿を変えて、あなたらしい新しい人生を切り開きなさいって」
龍は人の手によってつくられた存在だけれど、心もあれば自分の意思もあるのだから、例え血が通っていなくても、それはもう私たち人間と同じように“生きている”ということ。
魔獣といえど創作主に縛られることなく、好きな生き方を見つけるべきだと校長先生は龍にそう話したと言った。
「そっか……。龍がレックスさんの元を離れたのは、これ以上人を傷つけたりしたくなかったからなんだ」
それならやっぱり校長先生が言うように、ルキに襲いかかるようなことはしないか。
それならばルキは別の魔獣に記憶を抜き取られた?
「そういうことよ。あらやだいけない、あなたそろそろ教室に行かなくちゃホームルームがはじまってしまうわ」
「えっ?あっ、本当だ!もう8時20分だ!」
慌てて立ち上がった私は疑問を胸に残したまま、「たくさん話してくれてありがとうございました」と頭をさげ校長室の扉を外からそっと閉めた。
結局、ルキの記憶を抜き取ったのはレックスさんの龍ではない?
いくら考えたところでわからないから、ルキに校長先生から聞いたことを話してみよう。
もし龍が記憶を抜き取ったとしたのなら、話しているうちにルキが何かを思い出すかもしれないから。